川越の街を歩くと、歴史を感じる建物や、どこか懐かしい雰囲気に出会うことが多い。
そんな街並みの中に、ひっそりと佇む一軒の古物店がある。
店の名は「ふるものや浩山(こうざん)」。
昭和から平成へ、そして令和の今へと続く“時の流れ”を、丁寧に紡いでいる。
Contents
■ 店名に込められた想い
店主は山田浩二さん。
店名の「浩山」は、彼の名前の「浩(こう)」と「山(やま)」を組み合わせたものだ。
一見すると伝統的な屋号のようだが、実はご自身の名前にちなんだ親しみやすい店名である。
川越駅から徒歩25分、本川越駅からは約15分。
古き良き街並みが残る喜多院と近いエリアに、3年前にこの店を構えた。
「元々昭和のものが好きで、自分のコレクションを中心に始めたんです」と山田さんは笑う。
その言葉通り、店内には懐かしいポスターや家電、陶器やガラス瓶など、
まるで昭和時代の記憶がそのまま閉じ込められたような空間が広がっている。
■ “再利用”から始まった人生の転機
古物の世界に飛び込む前、山田さんは飲料メーカーで働いていた。
「会社では多くの商品を扱っていましたが、まだ使えるのに廃棄されてしまうモノが多かったんです。
それを見て“もったいない”と感じたのが原点でした。」
再利用できるものをもう一度世に出す。
それが「古物や浩山」の理念となっていく。
単なるリサイクルではなく、“リユース=再び使う”という文化の再興。
「リサイクルは素材を変えて再生するけれど、リユースは“思い出ごと引き継ぐ”ことなんです」と山田さん。
古物商としての活動を始めて11年。
そして3年前、この川越の地で自身の店をオープンした。
「昭和のものを中心に、今では平成のものまで扱うようになりました。
時代が変わるたびに、“懐かしさ”の価値も変わっていくんですよ。」
■ 海外のアンティーク文化と日本の“もったいない”
山田さんが大切にしているのは、「モノを大切に使い続ける」という考え方だ。
「海外では祖父母から親、子、孫へと受け継がれる家具や食器がありますよね。
日本にもかつてはそういう文化がありました。
それがいつの間にか“古い=不要”という風潮になってしまった。
でも、少し見方を変えれば、それは“時間の証”なんです。」
実際に「古物や浩山」では、長年使われてきた器や棚が新たな持ち主のもとで第二の人生を送っている。
「捨てるにはもったいない」という気持ちから持ち込まれる品も多い。
「地域の方々が“これ、次の人に使ってほしい”と持ってきてくださるんです。
そんな想いごと引き継ぐことが、この仕事のやりがいですね。」
■ 川越という街がもつ“時間の層”
実は山田さん、もともとは東京で暮らしていた。
しかしある時、知人を通じてこの場所を紹介され、川越の魅力に惹かれたという。
「東京から1時間ほどの距離なのに、ここは本当に“時間の流れ”が違う。
昔ながらの建物や、人とのつながりを大事にする文化が今も残っているんです。」
川越の街とともに歩むこの店は、単なる古物販売の場ではない。
「お茶飲み友達のように、気軽に立ち寄れる場所にしたいですね。
古いものを眺めながら、昔話をしてもらえるような。」
店内では、昭和家電や映画ポスター、西武ライオンズ・デストラーデ選手のサインボール、
国鉄時代の電車メーターなど、ひとつひとつにストーリーが宿る。
「モノを通して、記憶を語り合う場所にしたいんです。」
■ “昭和100年”を迎える今だからこそ
2025年、昭和の始まりから数えると100年という節目を迎える。
戦中、戦後の混乱、高度経済成長、バブル経済――。
昭和という時代は、日本が最も変化した時代でもある。
その時代を支えた日用品や文化が、いま再び注目を集めている。
「若い人たちが“昭和レトロかわいい”って言ってくれるのが嬉しいですね。
僕らにとっては当たり前だったものが、今の世代には新鮮に映る。
それこそが“時間のバトン”なんだと思います。」
■ “売る”よりも、“つなぐ
「古物や浩山」には、“販売”というより“継承”の感覚がある。
「査定をして値段をつけることも大切ですが、
一番は“誰かが大切にしていたものを、また誰かが大切に使う”という循環なんです。」
時には店に持ち込まれた品の背景を一緒に聞きながら、
「これはお父さんが学生時代に使ってたんですよ」と語るお客様もいる。
山田さんはそんな時間を何より大切にしている。
「物には必ず物語があります。だから僕は“古物商”というより、“記憶の語り部”かもしれませんね。」
■ “モノの価値”を見つめ直す時代へ
大量生産・大量消費の時代を経て、
いま、私たちは「モノとの関係性」を見つめ直す時代にいる。
リユースやサステナブルという言葉が流行のように語られる中で、
山田さんの営みはそれを“暮らしの実感”として形にしている。
「僕は大きなことは言えないけど、
この店を通して“モノを大切にする気持ち”を思い出してもらえたら嬉しい。
古いものが好きな人も、そうでない人も、
ぜひ一度この空間を感じてみてほしいですね。」
■ 終わりに――川越の時間を重ねて
「古物や浩山」は、まるで小さな“記憶の博物館”のようだ。
古びたポスターや時計、誰かの手跡が残る道具たち。
それらを通して、過去と今が静かに会話をしている。
川越という街が持つ「古さを大切にする」文化に寄り添いながら、
山田さんは今日も穏やかな笑顔でお客様を迎える。
「モノを通して人をつなぐ。そんな場所でありたいですね。」
時代がどれだけ移り変わっても、
“もったいない”という日本人の心は、ここ川越で確かに息づいている。



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